政府の施策を追い風として国内の太陽電池市場が活気づいている。ここ数年、欧米中の新興勢力に世界シェアを奪われた日本の太陽電池メーカーにとって巻き返しを図るチャンスになるとの期待が高まっている。
ただ、太陽電池の主戦場は海外市場だ。欧州はじめ世界全体の市場は金融危機を受けて調整局面にある。さらに相次ぐ増産投資で供給過剰も指摘され、価格競争に巻き込まれるおそれもある。短期的には国内市場の活況が織り込まれる太陽電池メーカーの株価だが、今期の売り上げ目標の達成が難しくなれば、期待がはく落する可能性があるとの指摘が出ている。
<日本市場の販売好調>
日本の太陽電池メーカー4社がほぼ独占してきた国内の太陽電池市場の足元は好調だ。ロイターの聞き取りによると、シャープは1―5月の国内販売件数が2ケタの伸び。同2位の京セラの1―5月の太陽光発電システムの国内販売件数は前年比で1.5倍、三洋電機は4―5月の販売金額が前年比1.5倍、三菱電機は4―5月の販売件数が約2倍になった。
背景には政府による太陽光発電システムへの補助金制度がある。太陽光発電普及拡大センターによると、今年1月に4年ぶりに復活した同制度の申請は、1月の受付開始から6月25日までに4万件を超えた。政府のほかにも都道府県や市町村の単位でも普及制度があり、同センターの調べでは432の自治体が補助金制度を設けている。また、来年度には家庭で生まれる太陽光の電力を電力会社が、家庭の電気料金の2倍程度の固定価格で買い取る制度(日本版フィード・イン・タリフ=FIT)が導入される見通しで、関連法案は参院の審議に入っている。
シャープの片山幹雄社長は活況な国内販売について「来年のFITで(引き合いは)これからも加速されていく」と強気の見方を示す。シャープは今期の国内販売件数は前年比2倍の伸びとみている。京セラの久芳徹夫社長も「足元の日本は追い風が吹いている」と強調。住宅メーカーが新築住宅の販売で京セラ製のソーラーシステムをセット提案していることも大きいという。
<公立小中校対象のスクール・ニューディールに脚光>
特に注目を集めているのが、2009年度の補正予算に盛り込まれた「スクール・ニューディール」だ。全国の公立小中学校のうち1万2000校に太陽光発電システムを早期に導入する方針。3年以内で導入される見通しだが、1校あたりの平均の設置量が20キロワット程度なら、1万2000校の総量は240メガワット分に相当。これは2008年の日本市場の設置量を超える規模となる。政府によると、各学校への支援金額は7月ごろに一部が決定する見込み。ある太陽電池メーカーは、受注が始まるのは8―9月以降になりそうだとみていた。
欧州太陽光発電協会(EPIA)によると、2008年(暦年)の日本の市場規模は230メガワット。かつて世界最先端の太陽電池王国を誇った日本も、ここ数年で巨大市場になったドイツやスペインなどに抜かれ、08年は世界6番目の規模に転落した。しかし、09年については400―500メガワットと2倍程度の拡大が見込まれている。
一方で、日本の太陽電池メーカーは、ここ数年、独Qセルズ、米ファーストソーラー、中国サンテックパワーなど新興の海外メーカーに世界シェアを奪われてきた。PVニュースによると、06年まで生産量で7年連続世界シェア首位だったシャープは欧米中の3社に追い抜かれ、08年には4位に後退していた。環境意識の高まりによる国内市場の活況は、太陽電池メーカーの株価にとって久し振りの明るい話題になっている。
<世界市場は調整局面、過剰供給でパネル価格下落も>
だが、最近の活況は「短期的なプラス要因」(大和総研アナリストの三浦和晴氏)に過ぎないとの見方が出ている。今期の太陽電池の売上高について、シャープは前年比20.9%増、三洋電機は同15.9%増を計画しているが、三浦氏は「達成は厳しいとみている」と指摘する。メーカにとって太陽電池の主戦場は海外市場であるためだ。実際、京セラの久芳社長は「欧米のソーラーは発電事業が中心。日本は発電事業でない部分が多く、量でいえば欧米のほうが市場は圧倒的に大きい。欧米市場の落ち込みを日本がカバーするには大き過ぎる」との認識を示している。
EPIAの予測によると、09年の世界市場は4.6―6.8ギガワットになる見込みで、日本は10分の1の市場規模。ただ、世界全体の市場は、金融危機の影響が尾を引いて依然として調整局面にある。欧州市場は太陽光発電プロジェクトに銀行からの融資が出にくい状況にあるほか、スペインでは昨年のFIT制度の厳格化によって09年の太陽光発電の設置量は急速に縮小する見込みで「バブルがはじける」(業界関係者)見通しという。
さらに深刻なのは過剰供給だ。新規参入が相次いでいるだけでなく、メーカーが次々に強気な増産計画を打ち出している。日本政策投資銀行・産業調査部の清水誠課長によると、世界各国の太陽電池メーカーの09年の増産投資の計画を積み上げると生産能力は25ギガワットを超える。EPIAの強気シナリオでも市場規模は6.8ギガワットで、需給ギャップは4倍近く。生産能力がそのまま製品として出てくることは少ないが、仮に半分の生産量でもやはり余る。清水氏は「現実に太陽電池の価格も足元で下がっている」と指摘する。
世界的にも金融危機で、Qセルズ、ファーストソーラー、サンテックの株価は、昨年秋から株価は急落した。1―3月期もQセルズとサンテックの利益率は低下した。一方で、ファーストソーラーは、シリコンを使わずテルル化カドミウムを材料にした太陽電池で製造コストを抑え、米国外での生産体制をいち早く構築。高い利益率を確保したことから09年のはじめから株価が急回復している。今年に入って世界の太陽電池メーカー間では、収益力の差で株価の二極化が始まっている。
<日本メーカーの復権に関心、パネル単品ビジネスから脱却を>
それでも世界的な太陽電池市場の中長期的な成長期待は依然として高い。市場や業界の関係者では日本メーカーの「復権」に関心が集まっている。
日本勢の世界市場での巻き返しについて、政投銀の清水課長は、Qセルズ、ファーストソーラー、サンテックが太陽電池専門メーカーであるのに対し、日本勢が液晶、白物家電、半導体、重電なども手がける総合電機メーカーであることで、太陽電池の付加価値を提供できるチャンスがあると指摘する。「太陽電池ビジネスはパネルだけでは価格競争に巻き込まれる。太陽電池の単品販売では利益を出せなくなってくる」とし、設置工事や発電事業との連携だけでなく、燃料電池や二次電池との組み合わせのほか、他の省エネ機器の融合などによる「総合エネルギー供給システム」としての付加価値の提供が必要になるとみている。
三洋電機の買収を計画しているパナソニックの大坪文雄社長は、次の成長事業としてエネルギー事業を掲げ「家まるごと・ビルまるごと」のサービスを提唱している。
日本勢の巻き返しのヒントが隠されていそうだが、清水課長は「掛け声だけではなく、すぐにでも具体策を提示するべきだ」と強調している。
さらに重要なのは海外事業の拡大策だ。日本市場は住宅用が主体だが、世界的には大規模な発電事業での需要が期待されている。シャープはイタリアの電力会社エネルと合弁でイタリアに太陽電池工場を建設するほか、エネルとは太陽光発電所も共同展開する計画。昭和シェル石油は、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと、サウジ王国内で太陽光発電の事業化を共同で調査し、昭和シェルの太陽電池の供給につなげる構え。
特に海外展開では、太陽電池の製造だけではなく、シリコンなど材料調達、製造装置、流通、建設、発電など川上から川下をつなぐ「サプライチェーン」の機能が重要になるとの見方が出ている。三井物産のソーラーシステム事業部の石森進部長は「米国の車社会も、車の大量生産だけではなく、テキサスの石油採掘、全米のガソリンスタンド網、車が自由に走れるハイウェーなど、いくつかの基礎技術があってはじめてできた。太陽光についても太陽電池の技術、蓄電池の技術、電気自動車、省エネの制御など周辺の技術と融合してはじめて爆発的に伸びる」と指摘する。
「日本の技術の普及の手伝いを商社としてやっていきたい」とする石森部長は「日本人は単品の技術を作るのはうまい。しかし、それをどのように全体のシステムにして新しい産業に持っていくか。生け花で言えば、1本1本の花を作るのはうまいが、どういう生け花にするのか。米国は、剣山しか持っていないが日本が作った花をくっつけて素晴らしい生け花を作ってしまう。何とか対抗できる仕組みを作り出したい」と述べ、日本メーカーによる太陽電池ビジネスの世界展開を後押しする構えを示している。