「新技術のコストが3割高くても,人類を救うための技術なら使わなければならない。表層的な経済の仕組みだけでなく,環境に与えるリスクを定量的に評価し,その“外部費用”も加味して新技術を使っていく社会的な仕組みが必要だ」。産業技術総合研究所の吉川弘之理事長は2008年5月29日,東京都内で開催された「グリーンIT国際シンポジウム」の基調講演に登壇し,グリーンITを推進するには,新技術の開発だけでなく社会の仕組みそのものの変革が必要だと強く訴えた。
吉川理事長は,まず大きな課題の1つとして「エネルギー」を専門とする学問がないことを挙げた。「石油の専門家はいるし太陽電池の専門家もいる,またそれを使うエンジンの専門家もいる。しかしエネルギー全体のことを研究している専門家はいない」(吉川理事長)。このため,エネルギー効率を最適化するために,機械や計算システムをどのように設計・製造すればよいかということを,設計者が体系的に学ぶ機会がないのだという。「こうしたことを体系的に説明できれば,エネルギー消費を下げる技術の開発に大きく貢献できるはずだ」(同)。
こうした問題が,環境に与えるリスクを定量的に評価できないことにつながっていると吉川理事長は指摘する。「定量的に計れるのは表層的なコストだけ。例えば,発電1kWh当たりのコストは,石炭や水力では5円,太陽電池では75円となる。しかし石炭には地球温暖化のリスクがあり,水力発電は森林など環境に与える影響が大きい」(吉川理事長)。このため,これからの指標としては,従来の製品生産性や機能性,使用性といった「コスト・ベネフィット」ではなく,環境負荷当たりの福利である「リスク・ウェルフェア」を使うべきだとした。
最後に吉川理事長は具体的な提言を1つ行った。それは「中立的な助言機関の創設」である。「自然科学者や社会科学者などから成る国際的な助言機関を設立し,政治家や行政機関など社会の行動者に対して,常に最新の助言を行う」(吉川理事長)。このような機関の設立により,理論解析やスーパー・コンピュータによるシミュレーションなどによる現状分析,長期予想の発信と可能な行動の提案が可能になるのだとした。