2008.05.28 毎日JP
地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するよう大規模事業所に義務づけ、「排出量取引」も認める環境対策を、東京都が10年度から全国で初めて実施する見通しとなった。都は国に先立ち、世界的規模の排出量市場創設を目指す「国際炭素行動パートナーシップ」(ICAP)にも参加予定で、石原慎太郎知事も自信をみせる。国や他の自治体、企業の環境対策に影響を与えるのは確実だ。【須山勉、江口一、大島秀利】
◇東商評価で追い風
「東京の制度について、意見交換したい」。昨年10月半ば、欧州連合(EU)の排出量取引制度担当官、サイモン・マー氏が、東京都環境局の幹部を訪問した。「欧州の経験について、情報提供したい」。国の頭越しの接触だった。
日本の国レベルでは、省庁間の対立や産業界の反発で、排出量取引の導入を決められない。マー氏は、そんな日本の現状を「デジャブ(既視感がある)だ」と語った。「欧州ではとっくの昔に議論が終わった話だ」という意味だ。
自動車の排ガス規制で多くの都民から支持を得た東京都は、05年から「地球温暖化対策計画書制度」を強化させ、大規模事業所にCO2などの削減を求めてきた。環境局幹部は「各事業所の実態をしっかり把握してきたからこそ、国に先駆けての削減義務化が可能になった」と自信を見せる。
ただ経済界の強い反発を受けることが予想されたため、都は当初、義務化のための条例改正を「08年度中」としていた。しかし今月8日、東京23区内の民間企業でつくる東京商工会議所(会頭・岡村正東芝会長、約8万社)が、経済団体としては初めて条例改正を評価する意見書を都に提出。来月の条例改正案提出に大きな追い風となった。
東商は「環境対策は時代の流れ」と評価。今年3~4月、環境問題の意識調査をした結果、回答した会員企業の約9割が地球温暖化対策は重要との認識を示したという。
EUが都に接触した狙いは、05年に始めた独自の排出量取引制度を広め、国際社会で主導権を握ることだ。EUはICAP設立も先導しており、先駆的に制度を導入する都にも参加を呼びかけ、アジアで初のメンバーになる見込みだ。
◇「公平性」疑問の声も
「2010年度に都が導入すれば、追随する自治体も出てくる。国全体で早く導入することが望ましい」。環境省の排出量取引制度検討会の座長を務める大塚直・早稲田大教授は今月15日、私見と断りながら検討会後の記者会見で語った。
東京都のCO2排出量は5750万トン(05年度)で、国内全体の約4%を占める。都の場合、事業所の数が全国の約1割、約70万にも上る。また、オフィスなど業務部門、工場など産業部門、運輸、家庭などのうち、業務部門が排出量の36・4%に上るのが特徴だ。
IT(情報技術)化によるパソコンなどの使用増加や、再開発によるビル建設が続いているため、業務部門の排出が急増しており、約4割の排出割合は、国の約2倍に達している。都の対策はいわば、「オフィスビル対策」ともいえる。
業務部門は国全体でも排出量が急増しているが、技術的に排出量取引を導入するのは難しいとされ、産業界の反対もあって国は導入に踏み切れなかった。しかし、事業所の排出量把握に努力してきた都が、技術的にもクリアできるとして導入することは、国の議論にも大きな影響を与えるとみられる。
企業関係者からも「国と都で違う基準の温暖化対策があるのは困る。統一してほしい」と、都の導入への後押しともとれる意見さえ出ている。
ただ、オフィスを主な対象とした排出量取引は海外でも先例がない。経済界には「公平な削減義務の設定ができるのか」という反発も残っており、制度の運用が注目される。
広島市が大規模事業所に加え市民も参加できる独自の取引制度を検討するなど、環境対策は全国の自治体で進められており、都のいち早い対策が参考になるとみられる。
◇約1300事業所が義務対象
都は6月議会に提出する環境確保条例の改正案で、2010年度からのCO2排出削減義務化を盛り込む。
義務化する対象は原油換算で年間1500キロリットル以上のエネルギーを使うオフィスビルや学校、ホテル、工場などの大規模事業所(現在約1300カ所)。
具体的な削減義務量は、各事業所が05~07年度に排出したCO2量の平均に削減義務率をかけて算出する。削減義務率は主な業種ごとに設定する。
都は事業所からの報告書をチェックし、削減義務を果たしていない場合は名前を公表したり、最高で50万円の罰金を科す方針だ。
義務化とともに導入されるのが「排出量取引制度」。義務づけられた量を削減できない事業所が、余分に削減した事業所にカネを払い、その分を削減したことにする仕組みだ。EUなどで導入されているが、各事業所の削減にかかるコスト負担を軽減し、削減に取り組みやすくする狙いがある。
◇京都府、06年に計画提出義務化
京都議定書が誕生した地、京都府は06年に地球温暖化対策条例を施行し、企業に削減を義務づけてはいないものの、総量削減計画の提出の義務化を通じてCO2の排出抑制を図っている。
対象は原油換算で年間1500キロリットル以上を消費する事業所。06年度は264事業所が提出した。結果は92事業所で増えたが、全体では前年度に比べ2・3%の削減を実現した。
中には、環境にやさしい製品の海外への輸出が伸びて、どうしても総量削減が難しい企業もあった。こうした企業を念頭に、代替措置を削減分として計算するルールも設けている。具体的には、森林の保全・整備▽府内産木材の利用▽自然エネルギー利用の電力や熱の供給▽グリーン電力の購入--を削減量とみなせる。
◇今後も流れ続く--西岡秀三・国立環境研究所特別客員研究員(環境システム学)の話
もたついている国を自治体が引っ張る形になった。地方自治体は住民と企業、行政の距離が近く、温暖化対策を求める声に敏感に反応しているのだろう。国の指示を待つのではなく、地域が率先してCO2削減に取り組み、国をリードする事例はこれからも続くのではないか。