2008.03.11 BPnet
東京都は『カーボンマイナス東京10年プロジェクト』を策定し、2020年までに温暖化ガス排出量を2000年比で25%削減する目標を掲げている。達成するためには都民全員の協力が必要だが、まずはエネルギー消費量の多い大規模事業所が削減義務を負うことになる。特にサーバを収容する「電算ビル」は際だってエネルギー消費量が多く、都も国も対策が必要な重点対象として取り組みを強める意向だ。
「電算ビル」に対しては、事業継続計画(BCP)の観点からのアプローチが注目されている。情報システムのバックアップ体制の整備などBCPを進めるに当たって、低エネルギー化は避けて通れないのだが、逆に言えば、最初からグリーンITとBCPを一緒に考えたシステムを構築することで、一石二鳥の効果がねらえるからだ。
東京都は去る2月に「『カーボンマイナス東京10年プロジェクト』施策化状況」を発表した。2007年1月からスタートしたこのプロジェクトで東京都は温暖化ガス排出量を2020年までに、2000年を基準として25%削減することを目標に掲げており、今回の施策化状況は、今後10年間に取り組むべき具体的な事業について、この1年余の全庁的な検討の成果をまとめたものである。
都市には世界の人口の約5割が、2030年には6割に達しようという数の人々が居住し、地球温暖化やエネルギー危機の大きな要因となっている。中でも1200万人を抱える東京はロンドンやニューヨークの約1.5倍、パリの約6倍という世界有数の大都市である。そのエネルギー消費量は北欧1カ国分に相当する。
東京都環境局の千葉稔子主査は東京都が環境対策に取り組む意義についてこう語った。
「低エネルギーで都市活動をまかなえるように努力することは東京や日本はもちろんのこと、地球全体に貢献することです。人間が引き起こした環境問題は人間が解決しなければなりません。東京が直面しているのは『いまそこにある危機』なのです。今後10年間の取り組みが地球の未来を決めるといっても過言ではありません」
省エネルギー促進税制も検討中
都はCO2削減に向け、いくつかの対策を掲げているが、その実現に向けて、「環境確保条例」の改正を2008年度中(2009年3月まで)に行う方針だ。
「条例の改正とともに、都民や企業のみなさんには自主的に対策に取り組んでいただく必要があります。都も部門を超えて全庁横断型の組織を作り、『カーボンマイナス東京10年プロジェクト』を推進しています。その施策化状況をこの2月に公表したわけです」と千葉さんは語る。
施策化の一例としては、都内において100万キロワット相当の太陽エネルギーの導入を促進するために、一般家庭4万世帯に太陽光発電など太陽エネルギー利用機器を普及させる「3ヶ年モデルプロジェクト」を実施する。
2008年度に制度を構築し、09年・10年において導入される機器の設置費用を都が支援する。目標としては3キロワットパネルの設置費用の3割減を目指す。予算は90億円を予定。
また、大規模都市開発においては一定レベル以上の省エネ性能を条件化し、都市づくりにおける削減対策を強化する。同様に新築ビルの省エネ対策も強化。
前述したように都自身も、施設の改修時等には「省エネ東京仕様2007」を適用し、都内のすべての車両用・歩行者用信号機のLED化や、省エネ型脱水技術による下水汚泥処理などを実施する予定だ。
税制面では東京都税制調査会で現在、検討中だが、都独自の「省エネルギー促進税制」の実施を考えており、税の減免による省エネ投資や設備導入の促進などを図る狙いだ。
「こうした温暖化ガス削減に向けた動きは東京だけではありません。実はロンドンやパリなどは、京都議定書の目標年次よりも先に進んだ、もっと高い目標値を定めて、既に動き始めているのです。東京も世界有数の大都市としてその流れの中で世界に貢献しなければなりません」
千葉さんが言うように、ロンドンは2025年までに1990年比で60%削減、パリは2050年までに2004年比で75%削減、ニューヨークは2030年までに2005年比で30%削減という目標値を掲げている。
こうした中で、東京都が世界の大都市以上に積極的な温暖化ガス対策に取り組むことが、日本を“環境立国”に脱皮させる大きな原動力になるはずだ
大規模事業所の対策が急務
東京都の温暖化ガス排出量は北欧1カ国並の多さだが、下の表を見ても分かるように、特に排出量が増えているのは業務部門である。90年を基準として比べると、2005年度には33%以上も増えている。業務部門とは主に事務所ビルやサービス業を指す。
次いで、家庭部門が約16%の伸び、逆に工場などの産業部門は約44%も減っている。ちなみに、運輸部門は自動車や鉄道などで、1%弱の伸び率とほぼ横ばいだ。
都の温暖化ガス排出量(2005年度暫定値)
都の温暖化ガス排出量(2005年度暫定値)
・基準年度:二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の基準年度は1990 年度、HFC等3ガス(HFCs、PFCs、SF6)については1995 年度を基準年度としている。
・2005年度の温暖化ガス排出量は、電力のCO2排出係数を2001年度(0.318t-CO2/MWh)に固定した場合の値。運輸部門における排出量については、自動車では都内の自動車交通量、鉄道では、都内の乗降客数、航空、船舶では、都内運行量を基準に算定
2005年度の排出量を部門別に見ると、下グラフのように業務・産業部門が約46%、家庭部門と運輸部門が約26%ずつと、半数を業務・産業部門が占めている。
この業務・産業部門のうち、約4割が都内に約1300カ所ある大規模事業所であり、残り6割は中小規模事業所69万カ所である。
「つまり、この大規模事業所対策が都にとっても実は国にとっても対策上、重要な焦点なのです。業務部門の温暖化ガス排出量がこれだけ増えてきた原因は、床面積の増加とともに、OA・電子機器類の普及による単位面積当たりのエネルギー消費量が増加したことにあります。大規模事業所の平均温暖化ガス排出量約1万トンです。その排出量の大きさからみて、大規模事業所は積極的に温暖化ガスを削減する責務があると考えています」
従来の自主的取り組みでは限界
東京都ではこれまでも2002年から大規模事業所などを対象に温暖化ガス削減の自主的取り組みを推進してきた。
当初はまず、自らの排出量を把握する必要性から、事業所に排出量の算定・報告、削減目標の設定、3カ年の削減計画の計画化と公表義務を課して、3カ年で平均2%の削減目標が事業所から出された。
「2%では目標値が低いのではないかという課題もありましたが、議論の結果、まずは自主的取組による更なる削減を実行に移していただくことを優先しました」と千葉さん。
その結果、都は各事業所が特別な設備を導入しなくても実行でき、3年以内にエネルギー費削減などでコストを回収できる共通の削減計画リスト(基本対策リスト※)を作成。それを元に対策ガイドラインや評価基準を策定し、2005年から各事業所が提出した削減計画に対して指導・助言することにした。
※主に空調や照明の対策が中心で、ボイラーなどの燃焼効率のアップや、温湿度の適正管理、蒸気バルブの断熱強化、照度管理、蛍光灯など高効率の照明ランプへの変更などがある。
計画書の評価基準は下図のように、最低のCから最高のAAまであるが、当初の提出計画(計画書(案))は半数以上がBとCという不十分なラインだった。
その計画書(案)に対して都が指導・助言を行うことで、最終的にはほぼすべての事業所についてA以上の評価に引き上げることはできた。この取り組みは2009年まで実施する計画だが、やはり自主的取り組みだけでは限界がある。
「いくら指導・助言してもAAに評価できる計画書は全体の25%のみで、半数はA評価に留まっていました。これではいけない。もっと大幅に削減しないと温暖化を阻止することはできません。そこで、規制的な措置も必要と判断し、2010年度から総量削減を確実に達成する新制度を導入することを提案したのです」2010年度から規制措置を導入
こうした経緯で都は2008年度中に環境確保条例を改正し、2010年度から新たな規制措置を導入することを目指している。というのも、取り組んでいる現場から「これ以上の踏み込んだ削減対策は経営者の判断がないと無理だ」という声が上がっていたからだ。現場の努力だけでは限界があり、トップの決断を促すためにも制度の導入が必要だったわけだ。
新制度では総量削減義務と排出量取引制度が導入されるが、その前提として、「積極的に取り組まない事業所が見逃される不公平をなくす」と宣言しており、ごね得を許さない覚悟だ。
新制度の基本的考え方は以下の4点。
1.総量削減を確実に達成する仕組み
2.取り組みのすぐれた事業者が評価される仕組み
3.排出量(削減量)取引の仕組み
4.東京の都市活力を高め、長期的成長を可能にする仕組み
対象となるのは燃料・熱および電気の使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上の大規模事業所。千葉さんによれば「主に床面積2万〜3万平方メートル以上のビルなどが対象となる」。
計画期間は5年間で、第一計画期間は2010〜2014年度、第二計画期間は2015〜2019年度だ。課せられる主な義務は温暖化ガス排出総量の削減と「温暖化対策計画書」「進捗状況報告書」などの提出・公表である。
温暖化ガスの削減義務量は、対象事業所の過去の実績排出量やこれまでの削減実績などを考慮した基準排出量に、削減義務率(取り組みがすぐれている事業所は削減率を低減)を掛け合わせて算出される。
義務量が決まると、ビルオーナーは計画に従って、削減努力をし、足りない分は他者の「削減量」の取得など排出量取引によってカバーしなければならない。取引は対象事業者が義務量を超えて削減した排出量やグリーン電力証書(自然エネルギーにより発電された電気の環境付加価値)の購入などにより行われる。テナント事業者には、ビルオーナーの削減義務に協力する義務が課される。
BCPの一環としてサーバの省エネ対策
各事業所が、さらなる省エネ対策を進めていくためには、自らの排出量が、同じ業種などで見たとき、どの水準にあるか知ることも必要である。そのため、東京都は「省エネカルテ」を作成し、事業所に提供している。
下グラフは、事務所ビルについて、建物の延べ面積当たりのエネルギー消費量を個別事業所ごとにプロットしたものだ。これによって同業種の事業所と自社の比較ができる。平均からかけ離れていれば、それだけ省エネの余地があることも示唆される。
実は、エネルギー消費量で見て平均とは比較にならないほど高い事業所がある。上の図にあるように、都内の事務所ビルの床面積当たりエネルギー消費量(エネルギー消費原単位)の平均は2365MJ(メガジュール)/m2だが、サーバなどの電子機器類が床面積の5%以上を占める「電算ビル(電算センター)」はなんと、7528MJ/m2と桁違いに消費量が高い。
サーバは24時間稼動で、空調も必要なことから、大量の電力を消費する。こうした電算ビルは都内に111事業所(事業所ビル)あり、都はその対策をことのほか重視している。
「以前、省エネ診断で電算ビルをお訪ねしたときは、『サーバを止めることはできない。省エネといっても‥‥』という声もありましたが、最近では省エネ・低発熱の“グリーンIT”と呼ばれるようなサーバの開発が進んでいますから、事業活動に影響を与えずにエネルギー削減も可能になっています」
電算ビルが都市のエネルギー消費を増やしている現象は世界の大都市でも同様に起こっている。東京都が発行した『東京都環境白書2006』によると、ロンドンにおいても電算ビルによる電力需要の増大が懸念されており、電算ビルを「インターネット(あるいはデータ)ホテル」と呼んでいるそうだ。
この電算ビル対策において、都の温暖化ガス削減対策と事業継続計画(BCP)の策定が関連する。
BCPとして情報システムのバックアップ体制の整備を進める上で、環境負荷の低減は避けて通れないからだ。都は今後、新築ビルに対しても一定規模以上の温暖化ガスを排出する対象事業所となれば削減義務を課す。そもそも義務以前に事業や企業を存続させる仕組みが温暖化ガス排出の増大につながっては意味がない。
千葉さんは「BCPと、低エネルギー・低コストの情報システム構築は入口が違っても出口は同じ」という。3月13日には、BCPとグリーンITを考えるフォーラム「環境&事業継続対策フォーラム」(主催:事業継続対策コンソーシアム)の基調講演で、東京都の取り組みについて話す。BCPを考えている人たちに、環境についての危機感を感じてほしいとの思いからだ。
既にバックアップ体制を構築している企業も、サーバなど機器類を更新する際はより省エネ性能の高いグリーンITを導入することは社会貢献のみならずコスト的にも有利になる。
BCP策定の上で今後、温暖化ガス削減対策は不可欠なポイントとなるだろう。