2008.03.29 日経ECOLOMY
IPCCの第4次評価報告書(AR4)で示された、気温上昇予測の上方修正について説明したい。これは「温暖化が温暖化に拍車をかける」という、新たに明らかになった知見であり、温暖化の深刻さを物語っている。
■温暖化そのものがCO2濃度を高める
すでに述べたように、人間の活動による大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の増加が温暖化の原因であることは明らかだ(可能性はかなり高い)。一方でAR4では、温暖化の進展そのものが、大気中のCO2濃度をさらに増加させるということも明らかになった。つまりその分だけ温暖化がいっそう進むことになるのである。このように、ある現象がその原因部分に跳ね返って作用する働きを「フィードバック」という。
CO2が大気・陸域・海洋で循環する過程を「炭素循環」と呼ぶ。温暖化がすすむと、この地球規模で見た炭素循環では、特に陸域の生態系において、土壌成分中の微生物呼吸の増加などからCO2の吸収能力が小さくなってしまう。また、温暖化で水温が上昇する海洋ではCO2が海水に溶けにくくなることなどで、海洋での吸収も若干減少する。結果として、残留分としての大気中のCO2濃度が増えるので、温暖化がさらに加速するというわけだ。(これを「気候―炭素循環のフィードバックが正に働く」と呼ぶ)。
この知見は、日本の研究グループをはじめ、世界の複数の研究グループが上記の過程を詳しく気候モデルの中に導入することで、初めて定量的な実験結果として確かめた成果だ。まだ温室効果ガスの排出が高めのシナリオ(A2シナリオ)についてしか予測実験されていないし、上記のフィードバックの大きさには不確実性もある。しかしAR4では、そのため2100年までに世界平均気温がさらに1度以上も追加的に上昇することが示されている。
またAR4では、気温上昇の予測幅で上限の評価に、この知見を反映させている。炭素循環に関するこういった新知見は今後、温暖化の緩和や排出削減など、長期的な気候の安定化の方策を考える上で少なくない影響をもたらすと考えられる。
■CO2削減はより厳しい目標が必要に
では、現在の炭素循環はどうなっているのか。最新のデータ(2000‐2005年)では、大気中の年平均増加量は41億炭素トン(炭素の量に換算した単位)と算定されている。人間活動 (化石燃料の燃焼セメント製造)による年平均排出量72億炭素トンのうち、海洋が吸収する22億炭素トン、陸域が吸収する10億炭素トン(焼き畑など人為的土地利用変化による放出と陸域生態系による吸収)の合計32億炭素トンを引いた数だ。大気中には年間これだけの炭素の残留・増加が生じている。
収支計算だけを見れば、年間で41億炭素トンの人為的なCO2排出を温暖化防止対策によって少なく排出するか、あるいは積極的な削減技術により排出を回収・貯留(CCS)すれば、残りを自然(海洋と陸域)が吸収してくれて大気中のCO2濃度は安定することになる。ところが、このような算定は、現在の炭素循環の下での推定であって、今後温暖化が進行すれば、気候―炭素循環の正のフィードバックにより、陸域・海洋での吸収能力は弱まり、従来考えられていたより多く緩和あるいは削減をしなければいけない。しかも、人為的排出量の年平均は、実際にはこれまで、1980年代は54億炭素トン、1990年代は64億炭素トンと増加の一途をたどっているのである。
大気中のCO2濃度は産業革命前(1750年)には約280ppm(ppmは濃度の単位で100万分の1)であった。最新(2005年)のデータでは、すでに379ppmまで増加している。将来の目標濃度を厳しい目標値である450ppmとすると、従来のモデルでは総排出量の目標は年平均約67億トン(21世紀中合計で6700億トン)となる。
ところが、上記のフィードバックを考慮した場合、年平均約49億トン(21世紀中合計で4900億トン)に修正した、より厳しい総排出量目標を掲げなければならない可能性がAR4で示されている。
さらに留意しなければならないのは、仮に現在大気中のCO2濃度が一定になったとしても、海洋のゆっくりした応答などで、最良の見積もりでも今世紀末までに0.6度気温が上昇してしまうことだ。現在の濃度以下に下げなければ、温暖化は防げないのだ。
■回収・貯留という削減技術のオプション
IPCCの第1作業分科会が温暖化の将来予測について評価したのに対し、その緩和策に関する評価は第3作業分科会がまとめている。一方、CO2の回収・貯留に関する削減技術については、IPCCが2005年に公表した「二酸化炭素の回収と貯留に関する特別報告書」においてまとめられた。筆者はその専門家ではないので詳細は差し控えるが、削減目標の話のフォローアップとして、その特別報告書のうち、陸上及び海洋での貯留技術の可能性を紹介する。
図1は、地中に貯留する場合のオプションの概観である。図中の1~3、すなわち、CO2を陸上または沖合の深い地下層に貯留することに関しては、これまで石油やガス産業が用いてきていて、油田・ガス田や含塩層の特定の条件下で経済的に採算が合うことが立証されている技術と同一のものを多く用いることで対応できるとしている。4は、薄すぎるか深すぎて採掘されない炭層の利用であるが、回収したメタンの扱いなどの課題が指摘されている。
図2は、海洋中に貯留する方法の概要である。これには2通りの方式が考えられる。1つは、溶解タイプで、固定したパイプラインまたは航行中の船舶から、液化した(あるいはガス状の)CO2を深海1000メートル以上の海中に水柱状に注入して溶解させる。ほかは「湖」タイプで、固定したパイプラインあるいは沖合のプラットフォームから深海3000メートル以上の海底に沈めるものであり、周囲の海水より密度が大きいため「湖」状となって、溶解を遅らせることが想定される。
これらの技術の開発にはすでに進行中のものもある。CO2濃度の安定化の議論において、削減の観点からの対応オプションの可能性を示すものであり、今後の議論に1つの大きな材料を提供することになるだろう。