最近人気のエコハウスは、化学物質を極力使わず、自然エネルギーを利用するなどして省エネを追求した家だ。建築主が省エネの参考にするのが、1999年に改正された「住宅省エネ基準」。これに基づく住宅は「次世代省エネ住宅」と呼ばれ、エコハウスの重要な要素の1つになっている。
ところが、「この次世代省エネ住宅には意外な落とし穴がある」と、室蘭工業大学の鎌田紀彦教授は穏やかでない指摘をする。「東京で次世代省エネ住宅を建てる人は断熱性がよいことからセントラルヒーティング(全室暖房)を選ぶケースが多い。そうすると、皮肉なことに、ずっと寒い北海道の住宅の2倍の暖房エネルギーが必要になってしまう」というのだ。
次世代省エネ基準は、日本を気候別に6地域に分けて、地域ごとに住宅の断熱・気密の基準を努力義務として定めている。罰則規定はない。
99年以降、既にこの基準に沿った住宅が次々と建設されている。2005年度には新築物件の30%が次世代省エネ住宅だったが、国は2008年度にはこの比率を50%に引き上げ、家庭部門のCO2排出量を850万t減らすことを目標にしている。
東京の基準値は甘過ぎる
次世代省エネ住宅の省エネ基準
次世代省エネ基準は、全国を6地域に区分し、地域ごとに住宅の断熱性や気密性、日射遮へい性を規定する。床・壁・天井の厚さや断熱材料、窓やサッシの構造、換気設備の性能などを定めている。図は東京など温暖なⅣ地域の仕様
出所:国土交通省
では、次世代省エネ基準の具体的な中身を見てみよう。最も重要なのが、家から失われる熱(熱損失)の値だ。そして、その値をクリアするために、(1)床・壁・天井の断熱性能(厚さや断熱材料)、(2)窓やサッシなど開口部の断熱性能(ペアガラスの構造)、(3)家のすき間面積、(4)換気設備の性能、などを規定している(上図)。
熱損失は熱損失係数(Q値)で表す。Q値は屋内と屋外の温度差が1℃の時に家から1時間に逃げる熱量をワット(W)で表したもの。Q値が低い家ほど断熱・気密性が高い。次世代省エネ基準では、北海道など寒冷地(Ⅰ地域)でQ値を1.6W/m3に、東京など南関東~九州(Ⅳ地域)で2.7W/m3としている。
しかし、いくら家の熱損失が小さくても、冷暖房設備が古くて冷暖房に多くのエネルギーを消費するのでは意味がない。そこで次世代省エネ基準は、(5)年間の冷暖房エネルギーの指針も定めている。北海道(Ⅰ地域)では390メガジュール/m2以下、東京(Ⅳ地域)では460メガジュール/m2以下である(メガは100万、ジュールはエネルギーの単位)。暖房の灯油消費量に換算すると、延べ床面積140m2のモデル住宅の場合、北海道では年間最大約1200L、東京では700Lの灯油を消費することになる。
ところが、実際に建築された次世代省エネ住宅をみると、灯油消費量はこの通りにならない。というのも、北海道では5年前からQ値を1まで下げた高断熱住宅が建設されており、暖房に費やす熱消費量を抑えられるため、灯油はわずか400Lで済む。一方、東京の次世代省エネ住宅はセントラルヒーティングをするケースがほとんどで、700Lの灯油を消費する。その結果、冒頭のように北海道の2倍の燃料がかかってしまう。「温暖だからといって東京のQ値を2.7と定めたのは中途半端だ。Q値を2程度まで下げれば暖房エネルギーを半減でき、灯油消費量は北海道と同程度になったはず」と、鎌田教授は基準のQ値設定に疑問を呈する。
では、家をより省エネにするには、どんな対策が求められるのだろうか。
まず、最も効果的なのが窓の構造だ。「熱損失の半分は窓から逃げる熱。断熱・気密性の高い窓枠とペアガラスを使うだけで、家の熱損失の約40%は改善できる」(鎌田教授)
家のすき間面積の減少も大切だ。すき間があると、風の強い日に逃げる熱が増える。次世代省エネ基準は、「床や壁、天井など100m2の面に最大約22cm×23cmのすき間(つまり1m2当たり5cm2のすき間)」を許容しており、逃げる熱が意外と大きい。
換気で多くの熱が奪われる
次世代省エネ住宅から「逃げる熱」
東京の住宅で暖房・給湯を行う際のエネルギー消費量
次世代省エネ住宅では窓から逃げる熱が大きい。東京の次世代省エネ住宅で全室暖房をし、通常の給湯設備を使うと、一般的な木造住宅よりエネルギー消費が多い
出所:室蘭工業大学 鎌田紀彦教授
とはいえ、家のすき間をただ減らせばいいかといえば、事は単純ではない。建築基準法では「屋内の空気を2時間に1回換気すること」を義務付けている。十分なすき間がある家は、自然換気だけで済むため家に換気扇をつける必要がない。ところが、すき間の小さい家は、換気扇が必要で、換気時に熱が逃げてしまう。熱を逃がさず換気するには、換気システムに熱交換機を付け、排気熱を回収する対策が求められる。家の構造ばかりでなく、高効率の設備の導入も省エネには欠かせない。冷暖房設備と同程度のエネルギーを消費するのは給湯設備だ。今のところ次世代省エネ基準は給湯設備の省エネを規定してはいない。だが、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、高効率の冷暖房や給湯システムを採用する住宅の補助事業「住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進事業」を推進している。
この事業で建設された住宅は、1999~2006年度に2686戸に達した。高効率の冷暖房機やヒートポンプ式の給湯器、熱交換器付きの換気装置に加え、熱回収する省エネ換気装置とヒートポンプ式冷暖房機の一体型空調設備を設置した例がある。
こうした高効率設備を導入した上で、熱を回収し、エネルギーを再利用すれば、さらに省エネ効果は高まる。例えば、風呂や食器洗いの湯の熱は排水とともに失われる。この排水熱をヒートポンプで回収するシステムを取り付けることで、排水熱の回収率は50%程度になるという。
一戸建て住宅に比べて集合住宅の省エネ化は、建築規模が大きい点や共用部を緑地化できるなど選択肢が多い。2006年4月に「改正省エネ法」が施行され、2000m2以上の住宅の新築・改修時に省エネ性能の届け出が義務付けられた。まだ数は少ないが、次世代省エネ基準を満たしつつ、屋上緑化や雨水利用などを施した集合住宅の建設が増えている。
康和地所(東京都千代田区)は分譲集合住宅すべてで次世代省エネ基準より低いQ値1.3を実現し、2005~2007年度に17物件、合計754戸を販売する計画だ。
環境省は2006年度から「街区まるごとCO220%削減事業」を開始し、建設費などの半分を補助している。補助事業の1つが、埼玉県越谷市で進める大和ハウス工業の「越谷レイクタウン」。次世代省エネ基準のQ値を大幅に下回る集合住宅を建設し、国内最大級の太陽熱給湯・暖房システムを備える。
昔の民家の知恵で夏も省エネ
積水ハウスの外気を取り込む住宅。家の南側にガラス張りの縁側があり、その通気窓から入った風が階段を上り、ペントハウスの通気天窓から吸い出される仕組み
ところで、断熱・気密性の高い住宅は、冬だけでなく夏にも冷房エネルギーを節約してくれるのだろうか。鎌田教授は、夏でも冷房を使わずに済む高断熱住宅を研究している。住宅南側にガラス屋根付きデッキを設置し、ガラス屋根を日よけカーテンで覆うと、夏は日射を防ぎ、冬は太陽熱を取り込める。屋内の気温が外気より高い場合は、住宅の低所と高所に通気窓を開ければ、屋内の空気が上昇して外に出る。「温度差を利用して風を作るのは昔の民家の知恵。現代の高断熱住宅にも生かせる」と言う。
一方、積水ハウスは積極的に外気を取り込むことで夏にも涼しい家を設計した。同社のサステナブルデザインラボラトリー内に建設した実験住宅がそれで、家の南側にガラスで囲った縁側を作り、陽光を取り入れる(上図の左)。この縁側の側面や上部のガラスに通気窓を設置し、外気を出し入れする。
「暑い夜はエアコンをつけて就寝する。屋外と屋内に設置した温湿度センサーで屋外の方が涼しくなるタイミングを判断し、自動でエアコンを止め、自動制御で通気窓を開けて寝室を涼しくする」と、木村文雄所長は説明する。
階段は吹き抜けで、屋上の六角形のペントハウスにつながっている。ペントハウスの各面にも通気天窓があり、外を吹く風の力で自然に開閉する。縁側から入った風は、階段を通り、ペントハウスの通気天窓から外へ出る。その際、屋内の熱気も吸い出される。まだ研究段階だが、30~40%の省電力になると見込んでいる。
原油の価格が2倍に高騰している現在、住宅の省エネは喫緊の課題だ。建設費2000万円の次世代省エネ住宅の床・壁・天井や窓の断熱性を高める費用は100万円程度で、20~30年の冷暖房費で回収できる。エネルギーの無駄を無くす住宅は、消費者にもメリットになるはずだ。