中日新聞 2008年1月20日
地球にやさしいエコライフ-。環境保全を促す標語ですが、温暖化が安全を脅かすのは地球ではなく、地球に生きる動植物です。それは人間の危機なのです。
宇宙物理学が専門の池内了さんが本紙への寄稿で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書を基にこう論じています。
「よく地球が危ないという言い方をされるが、地球は長い歴史の中でそんな激変を何度も経験しており、痛くも痒(かゆ)くもないだろう。問題は地球に生きる人間の未来なのである」
六千五百万年前、巨大隕石(いんせき)が地球に衝突し、動物種の半分が絶滅したとされています。大量の灰が地球を覆って厳冬をもたらし生物を死に追いやりました。地球上に生きる動植物は、激しい気候変動によって絶滅と進化を繰り返してきましたが、地球はびくともしませんでした。
平均気温が二-三度上がると20-50%の種が絶滅の危機に瀕(ひん)すると予測されています。IPCCは現状のままでは今世紀末の気温は一・一-六・四度上昇すると警告しました。水不足、熱波や洪水、穀物の生産減退…。池内さんのいう「人間が危ない」が現実化してしまうのです。
温室効果ガスのうち80%以上を二酸化炭素(CO2)が占めています。石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料が主たる排出源です。IPCCの警告は新しいエネルギー構造へ大胆に転換させようという呼びかけでもあるのです。
一八五九年、米国で初めて石油が採掘され、人類は産業革命で重要な役割を担った石炭に代えて燃やしはじめました。間もなくフォードが自動車第一号を製造し、人の移動は馬車から自動車に変わりました。用途は化学工業や発電にも広がり、今や小ぶりのドラム缶八千七百万本分を連日燃やしています。化石燃料の際限なき採掘は思慮に欠けます。
日本は昨年の主要国首脳会議で、二〇五〇年までに世界のCO2を半減させる「美しい星50」を提案し、首脳宣言に盛り込みました。「途上国も含めた目標なので先進国は限りなく100%に近い削減を迫られる」と、今夏の洞爺湖サミットをにらんで政府関係者が身構えています。
私たちも環境を意識した生き方への見直しが求められていることに、もっと敏感であるべきでしょう。
日本のエネルギー消費量が増えているのは産業部門ではなく、実は民生と輸送部門なのです。衣類乾燥機や温水洗浄便座などの普及で、第一次石油危機当時の二倍以上に膨れ上がりました。洗濯物は屋外で乾かす。自動車は燃費効率を最優先する。生活様式をスリムにして、そこに身の丈を合わせていくのです。
環境問題の専門家の多くは、気候変動を回避するにはCO2排出ゼロの太陽光や風力などを幅広く組み合わせる以外に手だてはない-と指摘しています。太陽光も、風力も、それぞれに欠点を抱えており、完璧(かんぺき)なエネルギー源など皆無だからです。
例えば太陽光の発電設備。日本は世界最大の生産国です。シャープはじめ電機業界の寡占状態だった市場に異業種の自動車メーカー、ホンダが風穴をあけました。太陽光の潜在力に着目したからです。
四人家族の電力消費を賄うまでに技術が進歩し、二年後にはコスト半減で電力料金並みの一キロワット時=二十三円を実現するというメーカーも現れました。一般家庭でも手の届くところまで値下がりしつつあります。
温暖化対策を戦略的に進めているドイツは日本を抜いて世界一の太陽光発電国に躍り出ました。日本も手をこまねいてはいられません。
太陽光には発電時間帯が昼間だけという制約があり、しかも余剰電気は電力会社に引き取ってもらい、夜間は逆に買わなくてはなりません。風力発電にも風の強弱に左右されるという泣きどころがあります。何としてでも不安定さを克服する知恵が必要です。
「カギを握るのは蓄電技術の開発だ」。資源エネルギー庁の上田隆之・省エネ新エネ部長の持論です。蓄電できれば、夜間利用も、電気自動車への充電も可能になります。予算を集中配分すべき緊急課題です。
今のところ自然エネルギーで電力すべてを賄うことは壮大なる夢に映ります。究極のエコとされる代替エネルギーとしての水素も早く手元に引き寄せなければいけません。化石燃料の用途を交通や石油化学などの限られた分野に特化させるくらいの気概を示さないと、CO2半減の目標こそが夢のまた夢になるでしょう。
標準的な太陽光発電の出力はわずか三・七キロワットですが、二千六百万戸の一戸建て住宅すべてが備えると、削減量は北海道と四国を合わせた森林のCO2吸収量に匹敵します。
太陽光は一バレル=一〇〇ドルを超えた原油のように価格に振り回される心配もありません。自然は太陽の燦々(さんさん)たる光や風を無償で届けます。
温暖化とは無縁の恵みを、翼をいっぱい広げて受け止めなければ、もったいないではないですか。